エピソード
Episode
◆IT時代のミュージカルづくり
  音楽や台本制作には、インターネット環境がフルに活用された。作曲が上がると、デジタル音楽ファイルで関係者へ送信される。電子メールでキャッチボールが行われて、作詞・編曲が仕上がっていく。
 でき上がった曲は、関係者用のWebサイトに掲示され、すぐに聴くことができた。また、実行委員同士ではグループメールで常時意見交換が行われた。
  平日はそれぞれの生活があり、休日しか集まれない人が多い市民ミュージカルに、e-インフラが果たした役割は、実に大きかった。
◆装置のプロトタイプ模型
◆ボランティア結集で衣裳製作
   大道具や照明・音響はキャストの人数にそれほど左右されないが、当初の想定を大幅に超えて200人が出演することになり、たいへんだったのは衣裳。

   洋裁教室を主宰する澤久さんをはじめ、多くのボランティア協力があって作り上げたが、ふれあい工房の作業場は、さながら縫製工場のような熱気だった。

◆衣裳づくり(ふれあい工房で)
◆組織コーディネイター
   あびこ市民ミュージカルの中で、最も特徴あるスタッフチームだ。子ども劇場や子どもの文化連絡会、子ども会育成会連絡協議会などのメンバーで構成された。
   スタッフ、キャスト合せて300人以上の大所帯は、子どもが半分以上を占め、幼児もいる。稽古スケジュールを調整する事務局機能の一方で、大集団を組織化し、毎週の稽古を楽しく充実したものにするのが仕事だ。稽古開始の昼食には、とん汁を仕込んだ。役柄によるチームづくりができるように、緻密にキャストの交流を図った。主役やわき役に関係なく、1人ひとりの稽古への参加状況に気を配る。8月には1泊のミュージカルキャンプを実施して、共通意識を高めていった。
   舞台上に芸術を作る演出家に対して、組織コーディネイターは、イベント制作におけるプロセスの演出者といえる。

◆リーダー会議で、手づくりデザートを
用意するコーディネイターチーム
◆市民・行政の協働モデル
   教育委員会職員が実行委員会の中にも入って、事務局や稽古場運営の仕事に共同で取り組んだ。
   ミュージカルの制作に慣れているプロの劇団やプロダクションに、一括予算で依頼するのでなく、台本づくりから作詞・作曲・演出・編曲・振付・美術・衣装などすべての部門を、市民から組織した委員と一緒になって、ひとつひとつプロデュースを進めていった。
   途中でやり直しが発生する困難もあったが、プロのネットワークに任せない、まさに市民による手づくりであり、行政との協働モデルともいえるイベントになった。


◆稽古場で成長する、生きた音楽

   台本に書かれた詞の大意をもとに、丹保さんが曲を作り、作詞家の宇内悦子さんへ送られると、ひと晩のうちに歌詞が上がってくる。言葉のイントネーションに合わせて、丹保さんがまた少し音符を直して、稽古に投入する。
   文化庁ミュージカル『黒姫物語』の全曲作詞も担当した経験のある宇内さんは、キャストの歌い方やキャラクターを見て、稽古場でも歌詞を修正する。そんなやりとりで、音楽も成長していく。これが、オリジナル音楽によるミュージカルづくりの楽しいところだ。
◆パッキーとシェイクスピア
  パッキーという名前は、カッパを逆さまにしたパッカが、愛称で呼ばれてパッキーになったらしいが、シェイクスピアの「夏の夜の夢」に登場する、妖精パックの名前からとったという説もある。
   なるほど妖精パックも、軽妙なセリフや動きで狂言まわしのような役どころだし、名前だけでなくキャラクターまで似ている。パックからパクったというのが、当たっているかも知れない。
  いっぽう、ウナギのローリーという名前は、ヘビのようにロールを巻いているような姿から、単純につけられた名前だといわれている。
◆悪役・ノラとカラス軍団
   カラスは組織的なワル、ノラ犬のノラは一匹狼という、異なるキャラクターの悪役が登場している。
   ノラは人間に対する怒りをもっている。パンダやトキを保護するくせに、ノラ犬は邪魔にする。子犬を捨ててノラ犬にしたのは人間じゃないのか、命はみんな同じだろう、とM14で歌っている。
   ノラの存在は、ペットを可愛がり、手に余ったらかんたんに捨ててしまう、人間の身勝手さを浮かび上がらせる。

◆製作のポイント3つ         実行委員長 森大吾
1.「歌入り芝居」でないミュージカル本来の構成台本
   「ミュージカル」は本来「Music」です。お芝居に彩りを添えるために、歌やダンスが挿入されるのでなく、音楽やダンスナンバーでストーリーが構成されてこそ、ミュージカルです。この方針で2時間のドラマの中に28曲の音楽が入りました。もちろん全曲オリジナルです。
   そして振付は、我孫子市内でダンス教室を主宰している3人の振付家に分担でお願いしました。ふんだんなダンスナンバーも、楽しみのひとつです。


2.全国へ発信できるテーマ
   我孫子市は「人と鳥が共存するまち」をキャッチフレーズに掲げて、全国でも珍しい鳥の博物館があったり、山階鳥類研究所、今年3回目を迎える全国バードフェスティバルなど、鳥に関係ある街として知られています。手賀沼が汚濁日本一を返上したことも重なり、沼に住む白鳥を題材にしたことは、とてもタイムリーで注目される要素が重なったイベントになっています。
  また、自然環境を守ろうというテーマに添って、このミュージカルの舞台装置や衣装には、できるだけリサイクル可能なものを活用して、ゴミの少ないステージを実現することも、目標にしています。環境保護を訴えるイベントを開催するいっぽうで、終わったらゴミの山では、本末転倒だからです。


3.プロセスも楽しむミュージカル作り
   このミュージカルの実行委員会には、子どもたちの育成に力をつくしている、市内の児童文化団体がたくさん参加し、「組織コーディネイター」という、異色のスタッフチームを構成しました。
いい本番を作ることのみを目標とせず、学校週5日制を生かした、毎週の稽古そのものが楽しいイベントになるよう、キャスト同士の仲間づくりや、鳥や自然についての勉強会、1泊2日のキャンプの実施など、いろいろ知恵をしぼってくれました。


   今回のミュージカル作りに参加することで、参加者皆さんが、新しい友人を得て、人生を豊かにすることができれば、とてもすばらしいことです。
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